“世界の舞台人形展”で来札された藤原玄洋さんに、作品を観ていただきました。


 「さっぽろ冬の祭典」の2作品を、ともに初日に拝見した。 今回は2作品の上演と言うことで、それぞれの
チームの熱気を感じ、楽しく拝見させていただいた。 観客の前で演じることで、おそらくもっとパワーアップ
した作品に仕上がったであろうことを思うと、もう一度、楽日に見られなかったのが残念な気がする。    

◆ 「ミラクルモンキー悟空! 鬼幻城の怪物」                            
 開幕から、緞帳の降りるまで、全力疾走のパワフルな舞台で、演技者の力量も、アマチュアで稽古時間も限ら
れていることを考えると、なかなかのものであった。 ただ、戦いばかりが目につき、迫力十分ではあるのだが
作品を見終わった後の感動はうすかった。 なぜ、戦わなければならないかを、もっとていねいに描くべきでは
なかったか? そうでなければ、ただ戦うこと大好きというだけの作品になってしまう。          
 鬼幻姫たちは、なぜ人身御供を必要としているのかが、充分な説得力がなかったように思う。 ただ悪いから
悪いヤツは、やっつけるというのでは、観客の心をとらえることはできない。 正義の力は、しばしば間違うこ
ともあるし、正義という理由だけで、横暴になることがある。 だから、悪でしか生きることができないという
論理を、きっちりと押さえておく必要があるのではないか。                       
 鬼幻姫(高橋千尋)は声も演技力もよかったと思うが、鬼幻姫とはどんな人間なんだろう。悪にパーフェクト
で、弱い部分はないのだろうか? 同様に、悟空は? 人野菜の根大(山本幸治)が、自分を食べさせることで
みんなを助けようとするのだが、ただ自身が犠牲になることだけしか伝わらず、残していく家族への葛藤はない
のだろうか?                                            
 少し厳しすぎる意見かも知れないが、人間には二面性があって、だからこそ観客が共感することができると思
うのだが。                                             
 音楽では、二胡と胡弓の生演奏という、意欲的な取り組みであったが、効果的な使われ方でなかったのは残念
であった。 もう少し演奏をきっちり聴かせる工夫が必要に思えた。 照明は、幾何学的な印象で、スペクタク
ルの大迫力であったが、静の部分に一工夫ほしいというのが印象だ。                   

◆ 「青い鳥──しあわせになるための冒険」                             
 この作品は、原作者メーテルリンクの遺言により、第二次世界大戦を引き起こした日本では、戦後上演するこ
とができなかった。 人形劇団プークが、劇団の戦前からの活動姿勢を遺族に何度も説明し、ようやく日本で上
演することができるようになったのだ。 そういう意味では、単なるファンタジーあふれる作品、というわけで
はないと思っている。(パンフレットに原作者が表記されていないのが気になった)            
 舞台美術は、明解で、ていねいな仕事であった。 照明との関係もあるのだろうが、人形が平凡で、遠見がき
かないきらいがあって残念だった。 特に、人間以外の人形は、もう少し大胆なデフォルメがあってもよかった
のではないだろうか。                                        
脚本は、少し力がなかったような気がする。 ストーリーを追うのに手一杯で、それぞれの世界に描きわけるこ
とが、充分できていない。 人形たちには、それぞれの場面で、日々の生活があり、そこで生きているのだ。 
チルチルとミチルが、訪れる世界にどんな意味があるのかが、うまく伝わってこないので、最後に我が家で青い
鳥を見つけることに、つながってこなかったのではないか。                       
音楽自体は、すてきに仕上がっているのだが、場面転換のブリッジの使い方に難があるような気がした。 場面
の変化がうまく表現できていないのではないだろうか。                         

◆ 最後に……                                           
 毎年、新作に取り組むのもいいが、たとえば新作は1年おきくらいにして、交互に過去の作品の再演の作品を
取り上げてはどうだろうか? 毎回、新作では、人形や舞台の製作、演出プランにかなりのエネルギーをとられ
てしまうが、再演なら人形や舞台を作り直したとしても、演技を中心にした舞台作りに集中できるのではないだ
ろうか? 新しい作品を次々作り出して、消費していくだけでは、あまりにもおしい気がするのだが。    
 ポーランドのユルコフスキーは、「プロは結果を、アマチュアはプロセスを重視する傾向がある」と述べてい
る。 誤解を恐れずいえば、私は、アマチュアは上手でなくてもいいと思っている。 上手になろうとすること
は当然だが、作品の出来不出来だけが結果のすべてではないだろう。 活動全体で評価されるべきではないだろ
うか。 そういう意味で、市民は皆さんの活動を支持してくれるに違いないのだ。             
 「さっぽろ冬の祭典」が23回も続いているとのこと、札幌の人形劇人の総合力に、改めて脱帽である。  
こんなに大勢の人形劇人たちが、しかもかなり長期間、多彩な年代の参加者が一丸となって、準備から上演まで
を取り組んでいくのだから、すごいパワーである。 かつては、各地で合同公演による、このような大規模な舞
台を持つことも、珍しくはなかったが、今では札幌でしか、定期的にもたれることはできないことを考えると驚
きでもある。 今後を期待したい。                                  
                                【GEN人形劇クリニック 藤原玄洋】


筆者・藤原玄洋さんのGEN人形劇クリニックのホームページは こちら です。